ビーズドール 秋好中宮


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正面から

秋好中宮付きの女房:「中宮さまは美しくて、人柄もお優しくて…
帝の御寵愛が深いのも当然ですわね」


後ろから1

――六条院・秋の町の自室でくつろぐ秋好中宮。
常日ごろ、そば近くに仕える女房たちには、
しばらく一人にして欲しいと言ってある。

横から

秋好:(また今年も秋が巡ってきたわ…お母さまの命日も近いのね。
お母さま…物の怪であるかのような汚名を着せられて…
わたくしの知っているお母さまは、そんな方ではないのに。
上品でお優しくて…
わたくしはお母さまのようになりたいと、いつも願っておりますのに…)

後ろから2

秋好:「お母さま…もう一度お目にかかりたい…」





さて、秋も深まってまいりましたね〜!
今回は秋好(あきこのむ)中宮です。

さていきなりですが、秋好の袿のデザインとして最初に準備したものは、
上のものではなかったんですよね。
元のデザインはこれでした↓
元の赤い袿
実際に制作した、写真の袿のデザインは、
作り方のページ(ページ下部のリンクからどうぞ)でご覧ください。
色が全然違いますね(笑)

コレはですね…
初めに私は秋好の袿として、輝かしい秋の風景を作ろうと思ったんです。
京都の輝かしい秋=燃えるような紅葉? ということで、
それなら地色は赤だね、重ねに緑を入れると引き締まるかな、
中宮だし国の永遠の繁栄を願って常盤色ということにすればいいかな、と
ぽぽぽぽーん(古い?)と決めたわけです。
構想さえ決まれば後は速いので、ぱぱっとデザインを描き終えました。
桐壺が完成したら作るつもりで、まだそんな時期だったんですね。8月の初めのことですよ(汗)
そのまま置いておきました。
ところが、ある日突然急に考えが変わってしまって…
このデザイン案はボツになりました。


このころ私が読んでいた本に、
平安時代からの装束に使われる色の一覧が載っていました。
その一覧の中に忌色(いみじき)と呼ばれる、喪に服するときにのみ使われる色がありました。
薄茶や、黒や灰色のような色です。

同じ頃、たまたま家に来ていた通販のチラシ(!)の中に、
秋の花が咲く夕暮れ時の風景(たぶん)を、
渋い色合いで描いた日本画の案内がありました。
つい、秋というと真っ先に紅葉を思い浮かべてしまうけれど、こういう秋もあるんだなと思いました。
冬に向かって枯れていく、少しさびしさのある秋です。

「秋は夕暮れ」と書いたのは清少納言(!!)でしたが、
源氏物語にも印象的な夕暮れの情景が出てきます。
藤壺が亡くなったときに源氏が見上げた空の情景です。
夕方の西の空に浮かぶ雲の色が、喪服の色に似ているという源氏の歌が出てきますね。
この鈍色(にびいろ。灰色だと思ってください。源氏と藤壺の関係では黒を着ないと思います)
は、もちろん忌色なのですが、
チラシの日本画に使われていた薄茶色も「忌色」と呼ばれそうな色でした。

そもそも秋好は「秋が好き」とは言っていないんですよね。
源氏に「春と秋とどちらがすぐれていると思うか」と尋ねられた時に、
「自分には決められないが、秋の夕方は亡き母の思い出につながるような気がする」と答えただけなんです。
ちなみに秋好の「母」とは、あの六条の御息所です。(゜ロ゜;)エッ!?
秋好はのちに、母を焼く業火を少しでも冷ますために出家したいと源氏に語ります。
秋好の人生は表向きには輝かしい中宮ですが、
心の中はいつも母を弔う思い一色だったのです。

秋好と六条の親子仲はとりわけ良好だったようなので、
母を亡くした悲しみは深いものだったはずです。
しかし、物の怪として扱われた母のことですから、表立っては悲しみにくいでしょうし、
秋好自身にも「物の怪の娘」というレッテルが、常についてまわっていたはずです。
その原因を作った源氏に対して、恨みは少なからずあったでしょう。
好きな季節を問われたときに、わざわざ「母を亡くした」と付けたことや
母を弔うために出家したいという相談をほかならぬ源氏にしたということは
胸に秘める恨みがこぼれ出た結果ではないでしょうか。

秋好が秋を想うのは、
本人の語るように母を亡くした季節だからということもあるでしょうが、
喪服の色のような秋の、とりわけ夕方の景色が、悲しみに満ちた心に静かに寄り添うから
ということもあるのではと思います。

ここでチラシの日本画の話に戻りますが、
私はなかでも空の部分に塗られた淡い緑色が印象的だと感じました。
夕焼け空の絵は多くあっても、この緑が描かれているものはあまりないような気がします。
人の目に留まりにくいのでしょうか。写真にもよく写らないようです(以前、撮影に失敗しました)。
やはり夕方に人が空を見上げるとしたら、普通見るのは柿色に染まる西の空ですよね。
そんな西の空に対して、東の空は青いまま暗くなっていきます。
この青と柿色との境目は、淡い緑色をしているのです。
位置としては、ちょうど頭の上になるでしょうか。

西と言えば、仏教では極楽浄土のある方角です。
例えばですが、藤壺の中宮を荼毘に付した時には、
人々は当然のように極楽浄土のある西を思っていたはずです。
しかし六条は、深い罪のために極楽に行けないのです。
煙とともにまっすぐ空にのぼって漂うしかありません。
それを知る秋好はひとり、喪を思わせる秋の夕暮れ時に、
母を荼毘にふす煙の昇っていった頭上の、緑の空を想っていたのでは…と
私は想像を膨らませてみました。


…というわけで、秋好にとっての秋の色は輝かしい紅葉ではなく、
忌色に似た、冬に向かって枯れていく野の色だったはず!
と私は考えなおしました。
もう、これは袿のデザインを描き直すしかありません!

よし、忌色を想わせる薄い茶系統と灰色を基調に、秋の夕暮れの緑をほんのりと入れよう!
あとは今後の別のビーズドール作成の都合も考えて(何を計画中なのかはお楽しみに)、
元の赤い袿と同じ柄の色違いで行こう!!
…このようにして、新デザインの方向性は決まりましたが、
配色に悩みに悩み、5回の描き直しをしました
(いままでは2回くらいまでしか描き直ししてませんでした)。
この手の渋みを目指す配色は今までしたことが無かったもので…(笑)
その間にちい姫と藤壺が完成しました(!)
そして、もうこれでいい…と6枚目のデザインで製作したところ、
何やら異国風(?)な色合になってしまいましたが
本当の狙いは以上のとおりです(笑)

ごらんいただきありがとうございました。

秋好の材料と図案はこちらで紹介します。


2011年11月20日公開
2012年11月10日更新



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